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第9話 「乙女心」
第9話 「乙女心」
クラリ
「あ。どうだった、飲み会。ていうか、涼クン」
沙利
「そうだった!明日会社近くのカフェに来て欲しいって言われたの!」
さっきの件ですっかり忘れていた。
テスを見送り、お菓子を食べていたクラリが驚いて顔を上げる。
クラリ
「本当に!?それって、あれじゃん。脈アリってやつ!」
沙利
「そう思いたいけど…今までずっと脈なしの片思いだったのに?」
「全然違う用で呼び出された可能性も」
クラリ
「いやいや。毎日会社で会ってんのに、フツー呼び出さないって。」
沙利
「…。そ、そうよね。」
クラリの言葉に納得する。
と同時にますます緊張してきた。
クラリ
「どうする。告られたら。」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
沙利
「嬉しい。」
クラリ
「そんだけ?」
沙利
「ううん、泣くかも。」
クラリ
「うおー。沙利ちゃん乙女!」
乙女って…
沙利
「なによ。それ、」
クラリ
「あー、でもなー」
「沙利ちゃんがもし涼と上手くいったら…オレ、一気に暇じゃん。」
そう言ってソファーにもたれかかって天井を仰ぐ。
沙利
「暇って。」
クラリ
「オレに構ってくれなくなるだろ。」
「そんで、ご飯も作ってくれなくなって、こうやって遊ぶ時間も無くなるのかも。」
沙利
「…バカね。そんなわけ無いでしょ。」
クラリ
「うんうん。ならいいんだ。安心。」
クラリが立ち上がって窓を開ける。
気持ちがいい夜風が部屋に入り込んだ。
クラリ
「オレもいつかはここを離れないといけないから。」
「それまでに、沙利ちゃんが涼ともっと仲良くなってるといいな。」
「オレが消えても、寂しくならないように。」
沙利
「…、出て行ったら、もう戻ってこないの?」
クラリ
「…どうだろ。オレは向こうの住人だし。向こうでやりたいこともある。」
沙利
「そうね、」
クラリ
「まあ、まだ先の話だよ。」
ふあー、と大きな伸びをしてクラリが窓を閉めた。
クラリ
「明日、いい結果になればいいな。祈ってる。」
沙利
「糸川君。」
糸川
「植野。来てくれたのか。」
――翌日。カフェに着くと、既に糸川君が待っていた。
スーツ姿じゃない彼は、とても新鮮で。
しばらく、ポーっと見とれてしまった。
我に返った私は慌ててごまかすように俯く。
糸川
「コーヒーでいいか。」
沙利
「あ、うん。もちろん!」
糸川君が注文し、私に向き直った。
糸川
「…。」
沙利
「…。」
…無言。
こちらから話し掛けようかと考えていると、糸川君が口を開いた。
糸川
「俺は、植野のことが好きだ。」
!!
ストレートな告白に、自分の顔がどんどん熱くなっていく。
糸川
「…植野は、どう思っている。」
すぐに返答しようとしたのに。
うまく言葉が出てこない。
落ち着け。
落ち着け!
沙利
「…私も、糸川君が好き!」
はっきり、強く伝えた。
その言葉に彼は少し驚き
糸川
「…、ありがとう。」
少しそっぽを向いて小さな声でつぶやいた。
よく見れば、彼の顔もなかなか赤い。
これって現実?
もしかして夢なんじゃ――
自分の頬を叩きたくなる衝動を抑え込む。
糸川
「最近、植野が早く帰ってたから。」
「もしかして好きな奴が出来たんじゃないかと思ってた。」
沙利
「え!?」
それって…クラリのこと?
確かにクラリが来てから、早く出勤して早く帰ることが多くなったな…。
沙利
「えっと、ちょっと別の事情があって。」
糸川
「…そうか。」
彼はひとつ咳払いしたあと、まっすぐ私を見つめた。
糸川
「俺と、付き合ってほしい。」
「仕事で会えないことも多いと思うけど、大切にするから。」
沙利
「!大丈夫。凄く嬉しい。ありがとう…。」
沙利
「たっ…ただいま、」
緊張が一気に解け、玄関のドアにもたれかかった。
奥の部屋からスリッパをパタパタと鳴らせてクラリが駆けて来る。
クラリ
「ど、どうだった!?」
沙利
「つ、付き合うことになった…!」
クラリ
「ほ、ホントに?まじで涼と付き合うことになったの!?」
沙利
「…うん。」
クラリ
「!!やった!おめでとーうっ沙利ちゃん!!」
“お祝いしなきゃ”とダッシュで消えたかと思うと、腕にたくさんのビールを抱えて戻ってきた。
クラリ
「ほら、早く!今からパーティーしよ!」
沙利
「…うん!」
クラリ
「よーし。オレも飲んじゃおう。」
沙利
「ダメ。向こうの世界でも、この世界でもまだ“子ども”なんだから。」
クラリ
「えぇっ」
沙利
「ジンジャーエールをどうぞ。これも苦みがあって、なかなか大人の飲み物よ。」
クラリ
「そうかなぁ。」
しばらくジンジャーエールを見つめていたが、思い出したように顔を上げる。
クラリ
「それで!?どうなったの!?」
沙利
「えっと、付き合うことになったっていっても、あんまり会う時間はなさそう。」
「基本はメールとか電話でのやりとりかな。」
クラリ
「へえ…。会社の人たちには言うの。」
沙利
「有美にだけ。」
クラリ
「有美?」
沙利
「私の親友。」
クラリ
「なるほど。どうせなら皆に言えばいいのに。」
沙利
「冷やかされるのとか、イヤなのよ。涼くん。まあ私もだけど。」
クラリ
「…変わってる。普通、自慢したくならない?オレなら、こう…おおっぴらに。」
沙利
「なに。クラリ付き合ったことあるの。」
クラリ
「えっ…、そ…そりゃあね、…。うん。」
沙利
「……。」
クラリ
「…。はいはい、かんぱーい!」
紛らわせるようにグラスを上げ、カチンとくっつける。
クラリ
「でも、まあよかった。本当。」
「たまにのデートなら、沙利ちゃんに構ってもらえなくなることはないし。」
沙利
「そればっかりね。」
クラリ
「そう?涼かぁ…会ってみたいな。」
ポツリとクラリがつぶやく。
沙利
「ほんと夢みたい。まさか両想いで、しかも付き合えることが出来るなんて。」
クラリ
「オレも彼女欲しい。」
沙利
「でも、今は“修行”なんでしょ。」
クラリ
「そう。修行一筋!」
「早く大人になって、お父さんの後を継ぎたいからな。」
沙利
「へぇ…。お父さんの後をね…。」
「その…修行を終えたら、本当に大人になれるの?」
クラリ
「もちろん。それがオレの国のルール。」
そう言ってクラリはビールを持ち上げる。
沙利
「ふうん。大人になったクラリかぁ。」
この世界での修業は、やれることが限られている。
クラリはここにいる限り子どもってことか。
いつか会えることができるのかな…
大人になったクラリに。
…。
クラリ
「ねぇねぇ」
沙利
「ん?」
クラリ
「明日、涼と会うの気まずくない?」
沙利
「大丈夫。平常心で行くわ。ドギマギしてたら皆に怪しまれる。」
クラリ
「初々しい。初恋みたい。」
沙利
「クラリの方がよっぽど乙女なんじゃない。」
◇乙女心◇End …続く。
クラリ
「あ。どうだった、飲み会。ていうか、涼クン」
沙利
「そうだった!明日会社近くのカフェに来て欲しいって言われたの!」
さっきの件ですっかり忘れていた。
テスを見送り、お菓子を食べていたクラリが驚いて顔を上げる。
クラリ
「本当に!?それって、あれじゃん。脈アリってやつ!」
沙利
「そう思いたいけど…今までずっと脈なしの片思いだったのに?」
「全然違う用で呼び出された可能性も」
クラリ
「いやいや。毎日会社で会ってんのに、フツー呼び出さないって。」
沙利
「…。そ、そうよね。」
クラリの言葉に納得する。
と同時にますます緊張してきた。
クラリ
「どうする。告られたら。」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
沙利
「嬉しい。」
クラリ
「そんだけ?」
沙利
「ううん、泣くかも。」
クラリ
「うおー。沙利ちゃん乙女!」
乙女って…
沙利
「なによ。それ、」
クラリ
「あー、でもなー」
「沙利ちゃんがもし涼と上手くいったら…オレ、一気に暇じゃん。」
そう言ってソファーにもたれかかって天井を仰ぐ。
沙利
「暇って。」
クラリ
「オレに構ってくれなくなるだろ。」
「そんで、ご飯も作ってくれなくなって、こうやって遊ぶ時間も無くなるのかも。」
沙利
「…バカね。そんなわけ無いでしょ。」
クラリ
「うんうん。ならいいんだ。安心。」
クラリが立ち上がって窓を開ける。
気持ちがいい夜風が部屋に入り込んだ。
クラリ
「オレもいつかはここを離れないといけないから。」
「それまでに、沙利ちゃんが涼ともっと仲良くなってるといいな。」
「オレが消えても、寂しくならないように。」
沙利
「…、出て行ったら、もう戻ってこないの?」
クラリ
「…どうだろ。オレは向こうの住人だし。向こうでやりたいこともある。」
沙利
「そうね、」
クラリ
「まあ、まだ先の話だよ。」
ふあー、と大きな伸びをしてクラリが窓を閉めた。
クラリ
「明日、いい結果になればいいな。祈ってる。」
沙利
「糸川君。」
糸川
「植野。来てくれたのか。」
――翌日。カフェに着くと、既に糸川君が待っていた。
スーツ姿じゃない彼は、とても新鮮で。
しばらく、ポーっと見とれてしまった。
我に返った私は慌ててごまかすように俯く。
糸川
「コーヒーでいいか。」
沙利
「あ、うん。もちろん!」
糸川君が注文し、私に向き直った。
糸川
「…。」
沙利
「…。」
…無言。
こちらから話し掛けようかと考えていると、糸川君が口を開いた。
糸川
「俺は、植野のことが好きだ。」
!!
ストレートな告白に、自分の顔がどんどん熱くなっていく。
糸川
「…植野は、どう思っている。」
すぐに返答しようとしたのに。
うまく言葉が出てこない。
落ち着け。
落ち着け!
沙利
「…私も、糸川君が好き!」
はっきり、強く伝えた。
その言葉に彼は少し驚き
糸川
「…、ありがとう。」
少しそっぽを向いて小さな声でつぶやいた。
よく見れば、彼の顔もなかなか赤い。
これって現実?
もしかして夢なんじゃ――
自分の頬を叩きたくなる衝動を抑え込む。
糸川
「最近、植野が早く帰ってたから。」
「もしかして好きな奴が出来たんじゃないかと思ってた。」
沙利
「え!?」
それって…クラリのこと?
確かにクラリが来てから、早く出勤して早く帰ることが多くなったな…。
沙利
「えっと、ちょっと別の事情があって。」
糸川
「…そうか。」
彼はひとつ咳払いしたあと、まっすぐ私を見つめた。
糸川
「俺と、付き合ってほしい。」
「仕事で会えないことも多いと思うけど、大切にするから。」
沙利
「!大丈夫。凄く嬉しい。ありがとう…。」
沙利
「たっ…ただいま、」
緊張が一気に解け、玄関のドアにもたれかかった。
奥の部屋からスリッパをパタパタと鳴らせてクラリが駆けて来る。
クラリ
「ど、どうだった!?」
沙利
「つ、付き合うことになった…!」
クラリ
「ほ、ホントに?まじで涼と付き合うことになったの!?」
沙利
「…うん。」
クラリ
「!!やった!おめでとーうっ沙利ちゃん!!」
“お祝いしなきゃ”とダッシュで消えたかと思うと、腕にたくさんのビールを抱えて戻ってきた。
クラリ
「ほら、早く!今からパーティーしよ!」
沙利
「…うん!」
クラリ
「よーし。オレも飲んじゃおう。」
沙利
「ダメ。向こうの世界でも、この世界でもまだ“子ども”なんだから。」
クラリ
「えぇっ」
沙利
「ジンジャーエールをどうぞ。これも苦みがあって、なかなか大人の飲み物よ。」
クラリ
「そうかなぁ。」
しばらくジンジャーエールを見つめていたが、思い出したように顔を上げる。
クラリ
「それで!?どうなったの!?」
沙利
「えっと、付き合うことになったっていっても、あんまり会う時間はなさそう。」
「基本はメールとか電話でのやりとりかな。」
クラリ
「へえ…。会社の人たちには言うの。」
沙利
「有美にだけ。」
クラリ
「有美?」
沙利
「私の親友。」
クラリ
「なるほど。どうせなら皆に言えばいいのに。」
沙利
「冷やかされるのとか、イヤなのよ。涼くん。まあ私もだけど。」
クラリ
「…変わってる。普通、自慢したくならない?オレなら、こう…おおっぴらに。」
沙利
「なに。クラリ付き合ったことあるの。」
クラリ
「えっ…、そ…そりゃあね、…。うん。」
沙利
「……。」
クラリ
「…。はいはい、かんぱーい!」
紛らわせるようにグラスを上げ、カチンとくっつける。
クラリ
「でも、まあよかった。本当。」
「たまにのデートなら、沙利ちゃんに構ってもらえなくなることはないし。」
沙利
「そればっかりね。」
クラリ
「そう?涼かぁ…会ってみたいな。」
ポツリとクラリがつぶやく。
沙利
「ほんと夢みたい。まさか両想いで、しかも付き合えることが出来るなんて。」
クラリ
「オレも彼女欲しい。」
沙利
「でも、今は“修行”なんでしょ。」
クラリ
「そう。修行一筋!」
「早く大人になって、お父さんの後を継ぎたいからな。」
沙利
「へぇ…。お父さんの後をね…。」
「その…修行を終えたら、本当に大人になれるの?」
クラリ
「もちろん。それがオレの国のルール。」
そう言ってクラリはビールを持ち上げる。
沙利
「ふうん。大人になったクラリかぁ。」
この世界での修業は、やれることが限られている。
クラリはここにいる限り子どもってことか。
いつか会えることができるのかな…
大人になったクラリに。
…。
クラリ
「ねぇねぇ」
沙利
「ん?」
クラリ
「明日、涼と会うの気まずくない?」
沙利
「大丈夫。平常心で行くわ。ドギマギしてたら皆に怪しまれる。」
クラリ
「初々しい。初恋みたい。」
沙利
「クラリの方がよっぽど乙女なんじゃない。」
◇乙女心◇End …続く。