政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「海外では仕事と関係ないところで上司が部下を誘い、夜に酒を交え、ふたりきりで食事をしたりするのはセクハラになる。ここは日本だが、俺はそれくらいの意識を持って坪井たちの上に立っていると理解してもらいたい」

 あえて理屈っぽく伝えると、坪井は眉をしかめて足元に視線を落とした。

「仕事にかかわる話なら明日会社で話そう」

「仕事ではなくプライベートです」

 坪井は俯いたままバッグの取っ手を力強く握りしめている。

「もしかして家庭や坪井の事情で退職したいとか、そういうたぐいか? それなら……」

「違います!」

 鋭い語気で遮られて口を噤む。

「社長、本当にわからないんですか?」

「察しが悪くてすまない。だけどな、俺と坪井は私生活での関わりが一切ない。だから仕方ないだろう」

 坪井はぱっと顔を上げ、鬼のような目をして睨んできた。
< 112 / 137 >

この作品をシェア

pagetop