政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「嘘じゃない。恵茉と出会い、ひと目見て好きになった」

「……はあ?」

 これまでとはまた違ったすごみのある低い声だった。いつもの丁寧で柔らかい声とあまりに違っていて内心驚く。

「利用するために結婚したのに、そんな簡単に好きになったんですか?」

「それは違う。たしかに柳沢家の土地はほしかったけど、その目的だけで結婚したわけではない」

「意味不明です」

 坪井は眉間に皺を寄せて怒りをぶつけてくる。

 それはこっちの台詞だ。ただの部下としか思っていない女性に突然こんなふうに絡まれて、俺の気持ちを勝手に決めつけられては困る。

「恵茉は優しくて綺麗な心を持っている、芯の強いしっかりとした女性なんだ。彼女の純粋なところや、夢を叶えようと努力する姿に俺も感化さ……」

「明日辞表を持っていきます」

 俺の言葉を遮り、憮然とした表情で言い捨てた坪井を呆気に取られながら見つめた。

「辞めるのか?」

「はい」

「大丈夫なのか? 次のあては?」

 さすがに放っておけず心配すると、ふんっと鼻で笑われた。
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