政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「そういうところが人たらしですよね。さすが若くして不動産王と呼ばれるようになっただけのことはあります」

 この前久しぶりに恵茉から不動産王と呼ばれたが、それとは比べ物にならないほど皮肉に満ちている。

「ご心配には及びません。夜のバイトをしていますし、貯金もありますから」

 うちは申告があれば副業は認めている。というのも俺自身が多方面に挑戦しているので社員にも同じ経験をさせたいのだ。

 だが坪井が副業しているという報告は受けていない。となると、申告しづらい職種だというのが想像できた。

 ここまで暴露するのだから辞める意思が固いのだろう。

「結婚したというだけで最低だったのに、愛人にしてほしいという私の誘いを断るなんて信じられません。それになんですか? 惚気ですか? 馬鹿らしくて聞いていられません。こんなつまらない男だったなんて、ガッカリです」

 これまで慕ってくれていた秘書にぼろくそに言われ、狐につままれた気分になりながらひとまず口を挟まないように押し黙る。

 無意識とはいえ、たしかに恵茉のどこに惹かれたとか、坪井に話す内容ではなかった。

 そこまで自分は無神経という自覚はなかったが、新婚で浮かれているのはあるかもしれない。
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