政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「なにか久我さんからの要望はないですか?」

 尋ねてみたが、久我さんは「ないよ」と即答する。

 そっか、ないのか。そのあっさりした態度は、柳沢家の土地以外に魅力がないと言っているようにも聞こえた。

 私が久我さんに居心地のよさを覚えたように、彼もまた多少なりとも好意を持ってくれているかもと期待したのだけれど。

「こんな簡単に決めていいのか?」

「実はこれまでに何度か見合い話はあったんです。ただ、お母さんがそんなのはしなくていいと言っていたし、私もまだ二十四なので結婚は早いとお断りをしていました。ええっと、だから……土地を手放さないまま生活を立て直すには、政略結婚という選択肢が前々からあったということです」

 質問の答えになっていない気がするけれど、見合い相手の中にあなたのように心惹かれた相手はいなかった、とはさすがに言えない。

 伝えたら引かれるだろうし、軽い女だとも思われてしまう。

 実際にそうなのだが、そうでもない。うまく説明できないけれど、こんなふうに出会ったばかりの人に強く惹かれたのは初めてなのだ。

 不動産王という存在に憧れていたのがおそらく色濃く影響している。
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