政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「なるほど。その若さで見合い話は大変だったな」

「母と亡くなった父はお見合い結婚でした。ふたりは見ているこちらが恥ずかしくなるほど仲がよかったし、そういう結婚の形は普通だと思っていたので、恋愛結婚じゃないとダメという気持ちはまったくないです」

 これは本音で、そういう出会いも素敵だと感じていた。一期一会の縁を大切にするのは決して悪いことではない。

 自分の中での結婚適齢期に差しかかり、恋い慕う男性がいなければ縁談を受けようとしていたくらいだし。

「久我さんはどうなんですか?」

「俺は問題ない」

「それでしたら、久我さんと結婚したいです」

 あまりに淡々としているものだから、こちらもなりふりかまわず率直に伝えた。久我さんは目を丸くして何度か瞬きをしてから微笑を口元に浮かべる。

(いさぎよ)い人間は好きだよ」

「ありがとうございます」

 彼の口から愛の言葉を聞ける日は果たして訪れるのだろうか。
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