政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
 今後芽生えそうな気配のする恋心を持て余しているわけではないのだけれど、久我さんとの未来に明るい光景だけを描けないのが切ない。

 でもその方がいいのだろう。これは政略結婚なのだと自分に言い聞かせられるから。

 彼を愛して、自分と同じくらいの気持ちを返してもらえなかったら苦しむだけ。

「手始めに名前で呼び合おうか。これからよろしく、恵茉」

「よろしくお願いします。涼成さん」

「いいね、ぐっと距離が縮まった」

 聞き心地のいい声がひりつく胸を優しく撫でたが、それがまた気持ちをざらつかせた。

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