政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「ふたつも食べたらカロリーオーバーじゃない?」

 と言いつつ、箱を覗き込む目が輝いている。

「こんなに細いんだから、多少脂肪がついてもかまわないだろう」

 目の前にある白くて細い腕を掴むと、恵茉の身体がわかりやすくびくついた。

 過去に交際経験はあると話していたわりに反応が初心(うぶ)で、どこまで彼女に近づいていいのかたまに距離感が迷子になる。

 なんでもないように手を離して皿にケーキを移動させる。俺の方はガトーショコラだ。

「食べ終えたら家の説明をしていいか? どこになにがあるか、まだわからないだろう」

「うん」

 にっこりと微笑んではいるが、俺が触れたせいで緊張が全身に広がっているはず。モンブランとショートケーキの両方を皿にのせても、反論せず目を泳がせていたから。
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