政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
 驚き顔のまま恵茉は両手で口元を覆った。

 これはどういう反応なのだろう。

「恵茉?」

 固まったまま動かない顔を覗き込む。

「ここに動物を連れてきていいと思っていなかったから、びっくりして」

 言いながらどけた手の下では口元がうれしそうにほころんでいた。

「いいの?」

「最初からそのつもりだった。ここは俺が管理している分譲マンションだから、諸々心配しなくていい」

 汚れたら自由にリフォームすればいいし、賃貸となると難しい部分も気にしなくていい。

 安心させるために言った言葉に恵茉は「え!」とまた驚いた。

「ここ賃貸じゃなかったんだ……でも、そうだよね。不動産王が他人の物件には住まないか……」

「面と向かって不動産王と言われたのは久しぶりだな」

「あっ」

 失言と勘違いしたのか恵茉はハッとしてまた口元を隠した。

「名前があるのにわざわざ不動産王と言う人間がいないだけで、別に嫌ってわけじゃない。むしろ光栄だよ」

 恵茉はそろりと手を下ろして俺の目をじっと見つめる。

 最初はほとんど目を合わせてくれなかったから、こういう仕草も俺に慣れてきた証拠だ。
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