政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「恥ずかしいからなにか言ってよ」

 頬を赤く色づかせた恵茉に腕を優しく叩かれた。彼女から触れてきたのはこれが初めてで、言葉では言い表せない感情が膨らむ。

「触れてもいいか?」

 願い出ると、恵茉は目を見開いてから照れたように目を逸らして頷く。

 壊れ物に触れるように優しく抱きしめる。恵茉の緊張が伝染して、柄にもなく心臓が大きく鼓動を打つ。

「普通とは違う始まり方だけど、俺を選んでくれたのだから恵茉を大切にする」

「ありがとう。よろしくお願いします」

 自分でも驚いている。俺の腕の中にすっぽりと収まっている温かく柔らかい存在を、こんなにも自然に愛おしいと思うなんて。

 甘い香りのする髪に顔を埋めながら小さく息をつく。

 婚姻届けを提出する前に、俺も真実を話すべきだと思うけれど……。

 実は柳沢家が所有する土地に以前から着目していて、どうにか手に入れられないかと思案していた。

 一度話し合いを申し出たが断られ、接触を見計らっていたある日恵茉が千石と会っているのを偶然目撃したのだ。
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