政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています

　先に気づいたのは商談を行っていた取引相手。俺は千石の名前は噂で耳にしていたが顔までは把握していなかった。

　千石がどうして不動産界隈(かいわい)で有名なのかというと、かなり傲慢な人間で『あの土地は俺のものになる』と豪語していたから。誰もがほしがっている土地なので、簡単に敵を作ったのだろう。

　これまで交渉の場にすら出てこなかった柳沢家なので、その場で契約という流れにはならないとわかっていた。ひとまず手中に収める有益な情報を得られるかもしれないと、ふたりの近くで話を盗み聞きしていた。さなかに事件は起き、これはチャンスだと彼女に近づいた。

　もちろん酷い目にあった彼女の手助けをしたいと思ったのも紛れもない事実で、前者と後者は半々くらいの割合だった。

　俺の存在を知ってもらえたし、後日仕切り直して彼女と会おうと策を練っていたところに恵茉が現れ、思いがけず食事の場を設けることができた。

　そこからはふたりの時間を純粋に楽しんだ。柳沢恵茉という女性に興味が湧き、彼女となら結婚してもいいと思うくらいに。

　結婚願望を持っていなかったからこそ、好奇心と仕事の有益だけで結婚を申し入れたのだ。