政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
 あっ。この服高かったのに……。

 状況に理解が追いつかず、口を半開きにして呆気に取られる。

「お連れさまがお客さまの飲み物になにか入れるのを拝見しました。当ホテルでこのような真似はお控えください」

 働かない頭で言われた言葉をひとつずつ噛み砕いていく。

 なにかって、なに? お連れさまは千石さんのことで、お客さまは私だよね? じゃあ当ホテルと発言したこの男性は……。

 先ほど掴まれた手首を反対の手で胸元に抱え込みながら男性を見上げる。

 驚くほど背が高い。百八十センチはゆうに超しているだろう。

 陶器のような白くて艶やかな肌と、真っ直ぐに伸びた鼻梁は高貴な印象を与える。目元は切れ長の二重で、左の目尻にある黒子(ほくろ)とふっくらした涙袋が色っぽい。両唇は厚く整っていて他のパーツと同じく目を引き、サラサラな黒髪は清潔感がある。

 こんなイケメン、生身で初めて見た。

 今度は違う意味で呆けていたのだが、耳をつんざく怒号が現実に引き戻した。

「失礼だな! 変な言いがかりをつけていったいどういうつもりだ!」

 場にそぐわない大声に驚いて心臓がびくつく。

 びっくりした……。

 愛人契約を提案するくらい品のない人だとは思っていたけれど、ここまでとは。
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