政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「ブロッコリーとツナのサラダと、秋刀魚の竜田揚げと、キャベツと人参のお味噌汁」

「へえ、すごいな」

「油跳ねるから離れて」

 こちらを振り向きもせず、子供に言い聞かせるように言う恵茉にきょとんとする。

 さっぱりしている性格というか、年齢のわりに落ち着いているのは承知しているけど、数時間前に夫となった俺に冷たすぎないか?

 物足りなさを胸に抱きつつ、言われた通り距離を取りながら後ろ姿を見守る。

「ずっとそこで見てるの?」

 ふいに問われて腕組みしていた手を解く。

「悪い。手伝った方がいいよな」

「そうじゃなくて、恥ずかしいなって」

 なにげなく恵茉のうなじに目がいく。調理を開始する前に髪をうしろでひとつに結んだ涼しげな首元が赤く染まっている。

 調理も、誰かに見学をされた経験もない俺にとって、なにが恥ずかしいのかわからず首を傾げたくなったが、ひとつハッキリしていることがある。それは恵茉が可愛いということだ。
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