政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「招待客が多くなる関係で、結婚式は早くて半年後になる。それを待って新婚旅行となると遅いと思うんだ」

「え、じゃあ……」

「先に新婚旅行に行くというのはどうだ? 恵茉は今月いっぱいで退職するし、時間にも余裕ができるだろう。それに犬や猫を預かっていない時じゃないと旅行には行けない」

 当初は『結婚後も涼成さんに頼りきりじゃなく、自立していたいから仕事は続ける』と言っていたが、動物保護施設を建設するとなれば時間はどれだけあっても足りない。

 そう説明すると恵茉は、二足のわらじを履く生活でどうにかなると考えていた自分の無知さに落ち込んだが、翌日には『仕事を辞めると不動産について学べないから、涼成さんに教えてもらいたい』と頭を下げた。

 顔を上げて俺と目を合わせたその瞳には力強い光がともっていて、心臓が大きく跳ねたのは記憶に強く残っている。

 俺は彼女のこういう隠された負けん気の強さに惹かれたのだ。

 新生活が落ち着き次第、今後は属している動物愛護団体の活動に専念していくことになっている。

「どう?」

「いいと思う。結婚式はまだでも、夫婦になったから新婚旅行なのは変わりないもんね」

 恵茉は愉しげに口元を緩める。
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