政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「それならモルディブに行きたいなぁ」

「決まりだな。俺も一度は行ってみたいと思っていた」

 スマートフォンを元の位置に戻すため上体を起こし、ついでにさりげなく恵茉から距離を取る。

「詳しくは明日決めよう」

「うん」と相槌を打った恵茉はどこか面食らった様子でいて、いかに俺が不自然な動きをしているのか自覚させられる。

 特別な感情を抱いてからどんどん自分らしさが失われて余裕がない。八歳も下の妻に、嫌われたくない、引かれたくないと取り繕うなんてな。

 情けなくなって苦笑すると恵茉は不思議そうに首を傾げた。

「ん? なに?」

「なんでもない。そろそろ寝ようか」

 横になって恵茉の後頭部に手を伸ばす。大切にしたいという思いを込めて優しくひと撫でしてから離れた。名残惜しくて、手を開いたり閉じたりして気を紛らわす。
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