政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「……な、なにか誤解があったようですね。私はただ、彼女とビジネスの話をしていただけです。なあ、恵茉さん」

 千石さんの低姿勢な言動に、今さら取り繕ってなにになるのかと呆れ返る。

 仕事の話なんてほとんどしていなかったのに。

 名刺を受け取ったのに自分のものを出さないのは、やましいことがあるからとしか思えない。

 千石さんに合わせて嘘をつきたくないけれど、肯定もできずただ黙り込む。その態度に眉をぴくりと上げた千石さんだったが言い返してはこなかった。

 その様子からは、この場を丸く収めたいという感情がありありと伝わってきた。

 私としてもこれ以上ことを大きくして周りの注目を浴びたくない。

「千石さん、この度はご希望に添えず残念です。お時間をいただきましてありがとうございました」

 丁寧にお辞儀をして営業スマイルを浮かべると、千石さんは安堵したようにホッと息をつく。
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