政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
ひと通りの家事を終わらせてから窓の外を眺めると、九月下旬の今日も太陽から強い日差しが降り注いでいる。ただ空は秋らしく、いわし雲が浮かんでいた。
暑そうではあるけど、そこまでではなさそう。
化粧とヘアセットを施したあと、涼成さんからもらったミントグリーンのシャツワンピースに着替える。それからベージュのカーディガンを羽織って近所のスーパーへ出かけた。
不足していた食材と、夕飯用の牛肉ブロックが入ったエコバックを両手に持って片道十分の道のりを歩く。
メインはローストビーフにして、付け合わせは和風でまとめたほうがいいよね。青菜のおひたしと、けんちん汁でいいかなぁ。天ぷらも揚げていいかも。涼成さんいっぱい食べるから。
調理の段取りを考えながら上機嫌でマンションに戻ると、エントランスの前で佇んでいた女性が「あっ」と声を上げた。
見覚えのある顔にこちらも「あ、どうも」とすぐさま反応する。
「坪井さんですよね? その節はお世話になりました」
ホテルの部屋に着替えを持ってきてくれた涼成さんの秘書だ。あの時のワンピースを着ている日に会うなんて、ちょっと恥ずかしい。