政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「仕事に関わることでしょうか? それともプライベートですか?」

「プライベートです」

 仕事関係ならまだしも、涼成さんについての話を本人以外から聞かされても対応に困るだけだ。

 どうにか状況を変えられないかと頭の中でぐるぐる思考を巡らす。

「すみません。このあと用事が立て込んでいて、あまり時間が取れないんです」

「十五分ほどで終わりますので」

 具体的な時間を提示されて返事に窮する。これでは逃げられない。それでもやり過ごせないかと、エコバックを持つ手にぎゅっと力を込める。

「スーパーに寄った帰りで生ものが入っているんです。冷蔵庫にしまわないといけないので、すみません」

「それくらいでしたらお待ちしますよ」

 変わらず笑顔をたたえている坪井さんに恐怖すら感じた。

 遠回しの拒絶をわかったうえでこの態度だとしたら、上手くあしらうなんて無理だろう。

 観念してそっと息をつく。
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