政略結婚ですが、不動産王に底なしの愛で甘やかされています
「……わかりました。エントランスホールでお待ちいただけますか? 駅前ならいくつもカフェがあるのですぐに入れるかと」

「厚かましいお願いで恐縮ですが、お部屋に上がらせていただくことは可能でしょうか? これは本当に、誰にも聞かれたくないお話なのです。涼成さんの沽券(こけん)に関わると言ってもいいです」

 えっ、家?

 坪井さんの強気な態度にひるみそうになったが、さすがにそれは頷けなかった。

「涼成さんの許可なしに勝手に部屋にはあげられないです。すみません」

 食材が痛んでいないか心配だし、ビニール袋を持つ腕が痺れてきて気持ちがそわそわする。

「んー……問題ないと思うんですけどね。何度かお邪魔していますし」

 にっこり微笑まれて心臓がドクンと不快な音を立てた。

 いや、でも、秘書なら部屋に入る機会があってもおかしくはない。千石さんと会っていた日だって、坪井さんは涼成さんに付き添っていたわけだし。

 そこでふと思う。休日だったあの日、涼成さんはホテルでなにをしていたの? 秘書を伴い、休日にホテルでの仕事があったのか。
< 93 / 137 >

この作品をシェア

pagetop