悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~2
だがその時、エリオットの低い声が聞こえた。ルカの胸倉をやや乱暴に引き寄せるのを見て、驚く。

「俺も想いを受け入れてもらうのに苦労したんだぞ。今だって、絶賛愛情表現中だ」

「……そ、そうなんスか」

あまりの気迫に、ルカが引き攣り顔で降参のポーズをした。

昨日、余裕がないと言っていたのは事実みたいだ。しかしそれは、ルカ相手だけのことではないらしい。

アメリアは呆けてしまって、動くのを忘れていた。

――カチッ。

「ん?」

剣を鞘に収める音がして、そばのクラークを見上げる。

「今、もしかして剣を戻しました……?」

「気のせいです。動いたので、音が立っただけかと」

「あ、そうですよね」

アメリアは、何度見ても見慣れない剣を見下ろしてしまう。

「大丈夫ですよ、不意に抜けて刃が見えたりはしませんから。安全です」

それは何度か聞いていた。うっかり怪我をしてしまわないか心配したことを見越して、またそう言ってきてくれたのだ。

なんで考えていることが分かるんだろうと、不思議に思う。

エリオットが、ルカから手を放した。

「彼女は手ごわい。貴殿が何を思っているのかは知らないが、すんなりよその男になびくなど〝期待〟しない方がいいのでは?」

先手を打つように腕を回して、アメリアを連れ出す。

このまま去って良かったのか、後ろが気になった。

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