悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~2
当時の両親の記憶だってない。友達のことも、あの頃の自分がなんと呼ばれていたのかも――。

「アメリアは、また授業前に『活動』かな?」

「え、ええ、そうですわ」

いつもの柔らかな口調だ。戸惑いつつも答えると、ロバートがアメリアと同じ赤薔薇色の目を優しく細めた。

「そうか。何かはわからないが、楽しめるといいな」

どういうものかもわからないのに、彼は詳しいことも聞かず頭をなでなでする。

「じゃ、僕は行くよ。仕事の移動の途中でね。また家でな、アメリア」

最後にぐりぐりっと強めに撫でて、ロバートは廊下の向こうへと歩いていった。

(なんだか、そうしていると『兄』を思い出すような……)

あまり思い出せていない前世の兄。

でも、いつも兄が守っていてくれたことは覚えている。ジグソーパズルの数少ないピースのような記憶の断片に、『兄に支えられた』『助けられた』という、当時のアメリアの感情が残されていた。

(――まさか、ね。そんなことあるはずないか)

ロバートは、悪役令嬢アメリアの兄であって、記憶にある〝前世の兄〟ではない。

彼は、品よく微笑んだり座ったりはしない人だった。

蘇った記憶の一つで、バイクの前で座り込んでいる後ろ姿は、とてもではないがロバートがしそうにないしゃがみ姿勢だ。

「……あれがアメリア嬢の兄上? めっちゃ似てないっ、めちゃくちゃ怖ぇ!」

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