悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~2
「会えない中でも、手紙は来ていたんでしょう?」

ヴァレンティーナが、一度紅茶で喉の渇きを癒して言う。

「はい。クラーク様から迎えられた時にもらって、帰る時に返事を持たせて」

「あのエリオット殿下が毎日手紙なんて、ほんと恋してるのねー。そのクラーク騎士隊長も、そろそろ来る頃合いかしらね?」

ヴァレンティーナが、始動の準備のように腕を伸ばした。彼女もこれから別件でまた用があるとか。

その時、タイミングよくノック音が響いた。

扉前で軍人立ちしていたムキムキの女装の護衛が、扉を開ける。

そこにいたクラークが、威圧しているような強面の大男と顔が会うなり、じっと見つめ合う。

「……何をしていますの?」

ちっとも動かない二人を見て、ヴァレンティーナが焦れたように言った。

「いえ。かなり個性的で強めの化粧だな、と思ったもので」

濁してはいるが『化粧』とピンポイントで口にしたクラークを見て、アメリアははらはらした。

他の令嬢たちの姿がない特別サロンには、三人の〝ドレスの護衛〟がいた。

女性の肌に見立てようとしたのか、かなり濃い白粉をしている。武骨な頬にはオカメのようなチーク、太い眉毛の下はマスカラで眼力も増していた。

ちなみに、ヴァレンティーナ作だ。

待ち合わせしていた彼女に、授業が終わるまでに仕上げたのだと自慢された際、アメリアは感想を絞り出すのに苦労した。

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