悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~2
気付かれた。シャンパングラスを持った美男子が、じっと見ている。

びっくりするくらい濃い紫の髪だった。それでいて目も、何百万本もラベンダーを集めたかと思うくらいに綺麗な紫色だ。

アメリアは冷や汗が流れた。

衣装からしても王族関係者だろう。ジャケットの前と後ろが長くて、形作っている部分も国内では見たことがない型だ。

(クラーク様、冷酷な隊長として後ろの人達をどうこう思っているところじゃないです、まずいですっ)

クラークに相談したくてたまらないが、緊張でへたに動けもしない。

その時、不意に彼の方が目を和らげ、視線を元に戻してマティウスたちとの会話に加わっていった。

(……あら? 気にしないみたい?)

変な目で見られるかと思ったのに、不思議な男性だ。

警備もきちんとされているので、不審者ではないと推測したうえでの余裕なのだろうか。

「あ。忘れてた」

アメリアは、ハタと思い出してクラークの袖をくいくい引っ張る。

「クラーク様、いい場面を逃してしまいますよ」

茂みの向こうへ指を差し向けると、警備兵らを無言で威圧し続けていた彼が、眼差しの強さを解く。

「そうでした。軍人として教育を叩き直しているところではないですね」

警備兵たちが、一斉にほーっと肩を落とした。

アメリアは露骨な様子を見て「はは……」と苦笑を浮かべ、ちょっとだけ申し訳なさと同情を覚えた。

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