悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~2
つま先立ちした際に、ドレスのスカートが揺れた。少し足に当たったエリオットが、身を固まらせた直後にアメリアの顔が迫る。

ちゅ――と唇で触れたのは、エリオットの頬だった。

離れてすぐ、目を見開いている彼が視界に映る。

これが、初心なアメリアのせいいっぱいの甘やかしだ。彼のように素直に愛の言葉などは伝えられない。

(頬へのキスも返せるようになったのも、自分でも驚きだわ)

彼が溺愛全開モードで接しまくってきたせいだろう。そのうえ、アメリアからもして欲しいと散々ねだられて困らされた。

「私がこうしてするのも、エリオット様だけなんだからね」

クラークが見ていると思うと、じわじわと頬が染まりそうになる。

「だから、その……機嫌を直してくれる?」

「まぁ、アメリアがそう言うのなら」

ややあって身動きしたエリオットが、悪くなさそうに頬をさする。

周りの者たちが各自仕事を進めながら「……単純」「なんて単純」と口に出しているのを、クラークが横目に見ていた。

「忙しそうね」

エリオットに導かれて、アメリアは共にソファに腰を下ろした。

「まぁ今だけだろう。がんばるさ。兄上の婚約が決まってから祝辞だけでなく、近隣国の者たちも挨拶に訪れているからな」

国王夫妻と揃って、第二王子であるエリオットも社交に追われている。

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