悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~2
「幸せな人生が、開けない」

同時刻、彼の手元で書類がくしゃっと音を立てた。

十八歳の第二王子、エリオット・フォン・ウィルアベルは、多忙になった第一王子を支えるべく別管轄の仕事も一部担っていた。

輝くような金髪に、一目見つめられれば令嬢達が恋に落ちるとされている威風堂々とした紺色の瞳。優しい相貌の兄とは正反対の強気な美貌は、どんな表情であっても美しい。

そう、たとえ書斎机に両拳を押し付けて、ぶるぶる震えていても、だ。

「……殿下、どうされたんだろうな」

「大丈夫だろうか?」

室内を行き来していた部下達が、ひそひそと困惑して話す。

その時、つい見てしまう目立つチェリーピンクの髪が視界の隅で揺れて、彼らは一斉にそちらを見た。

「あっ、ロバート様!」

移動前の部署から引っ張ってこられていた部下達と戻ってきたロバートに、一人が駆け寄る。

「おや、どうしたんだい?」

にこやかに答えた彼は、第二王子と同年齢のロバート・クラレンス。彼の婚約者の実の兄である。

アメリアと同じ赤薔薇の瞳を持った美男子だ。

妹と違って、柔らかな印象の愛想の良い表情をしている。優しくて、仕事もよくでき、職場の後輩たちからも支持を受けていた。

「ロバート様、少しよろしいですか?」

「書類整理のコツ?」

「……いえ、違います」

どこからそんな推測に飛んだんだろう。

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