悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~2
あとでルカがいない時にメモしておこう、とアメリアは思った。

軍の見張り台がある棟部分に近いので、貴族の通行は減っていた。周りを気にしたみたいにルカがきょろきょろする。

「……あのさ。俺、あんま人のいない暗いところに行くのは、ちょっと」

歩く軍人の姿もなくなってしまった時、ふと小さな声が上がった。

「はい?」

振り返ると、忙しなく辺りを観察しているルカがいた。

どこでも好き勝手歩いているのだろうと思っていたから、少し意外だった。

(このあたりは初めて来たのかしら?)

クラークも、通路はほとんど軍人が使っていると言っていたから、そうなのかもしれない。

「そんなに暗くもないですわよ。窓が少し小さいだけですわ」

「閉まっていたらさ、声だって外には聞こえないだろ?」

ルカがごにょごにょと続ける。その目は、相変わらずアメリアではなく周囲を忙しなく見ていた。

(なんか……意外かも?)

アメリアは、赤い目を丸くして彼を見上げた。

歩きながら、クラークも顎を撫でてその様子を観察している。

「おや。ルカ殿下は、女性を連れ込むのさえできないお方ですか?」

「そっ、そういう意味じゃなくて! いや、俺だってしようと思えば……って何言わせんだこの騎士!」

ルカが頬を染めて怒った。

(女性である私のそばで何を言っているのか……)

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