それでも愛がたりなくて
 平穏で幸せな結婚生活に充分満足はしていたが、ひとつだけひっかかることがあった。
 交際中は勿論気をつけていたが、結婚してからは一度も避妊はしていなかった。お互い特に焦ってもいなかったし、授かりものなので自然にまかせればいいと考えていた。しかし結婚して五年が過ぎた頃、さすがに気になった塔子は婦人科を受診した。
 結果は――

 特に異常はなかった。

 ほっとしたのも束の間、塔子は検査結果を賢治に伝えるべきかどうか考えあぐねていた。


 ベッドに入ってきた賢治に優しく触れられ、額から瞼、頬へと順にキスが落とされていく。そして唇に届いた時には、賢治の吐息は熱を帯びていた。
 賢治の大きな手の平で胸を優しく包まれ、固くなった先端を指で摘ままれ、次は舌で転がされる。そしてもう片方の手はゆっくり下へとおりていく――と、塔子の身体は強張った。

「体調悪い?」

 手を止めた賢治は、心配そうに塔子の顔を覗き込んだ。

「ごめん」

「いや、こっちこそごめん。気付かなくて」

「ううん、違うの」

 しばらく躊躇した末に、塔子は重い口を開いた。

「実はね……」

 と、数日前に婦人科で検査を受けたこと、その結果、パートナーにも検査が必要だと言われたことを賢治に打ち明けた。
 賢治はしばらく天井をぼんやり見た後、塔子に目を向けた。

「わかった。来週休みをとって俺も行くよ」
 
 打ち明けたことで塔子の気持ちは少し軽くなったが、それが正解ではないような気もしていた。

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