近くて遠い幼なじみの恋
「誰が婚約披露パーティなんて」
帰り道に何度も口にする。
行きたいわけないけど婚約者が気になる。
凄く綺麗でお金持ちな人なんだとは思うけど。
「あの調子じゃ誰も知らなさそう」
飲み会の仲間を思い出したけど何も知らないだろう。
「さち?」
祖父の荷物を振り回して歩く私に聞きなれた声と国産の高級RV車がウインカーを出して止まった
「あーちゃん」
「乗るか?」
黙って頷いて助手席のドアに手を掛けたけど一瞬考えて後部座席側のドアに手を掛けた。
「お前、重役かよ。隣で良いだろ」
苦笑い気味に助手席のドアを開けてくれる
「ありがとう。でも仕事中でしょ?」
助手席に乗り込みながらスーツ姿のあーちゃんにドキッとしてしまう。
「まあな、今日はもう終わり。さちは鰯じいちゃんの見舞い?」
「うん、柊じいちゃんもいたよ」
あれ以来会って無かったのが嘘みたいに言葉が出てくる。
でも車内が気になってついついキョロキョロしてしまう。
「何か気になる?」
「別に何も」
“本当は婚約者も乗せたりするのか気にしてました”
なんて言えるわけも無く、
「婚約おめでとうございます」
絶対言いたくなかった言葉だけど大人の対応とやらを乗せて何とか言葉を吐き出した
「どうも」
ボソッと呟いて少し乱暴に家とは逆方向にハンドルを切った。
自宅何てすぐ着く距離なのにあーちゃんは私でも分かるような遠回りをしてる
「帰りたくないな」
婚約者さんには悪いけど今だけはあーちゃんを独り占めしたかった。