近くて遠い幼なじみの恋
「分かった」

何処を目指してるかはもう分からない。
あーちゃんも黙って運転するだけで携帯が鳴っても無視してる

ブーブー…

「あ、お母さん」

私の携帯が震えだしてディスプレイに“母”の文字。

「スピーカーにして」

運転してるあーちゃんに指示されて携帯をスライドさせた

『悪いんだけど帰りに玉子買ってきて』

スピーカーを通して聞こえる呑気な母の声に少し恥ずかしくてあーちゃんをチラッと見る

「おばさん絢です。」

『あらっ絢くん。幸は?』

「お母さん、居るよ」

一応居る事を意思表示

「おばさん今日さち遅くなるから玉子無理です」

『「え?」』

あーちゃんの言った事が2人共意味が分からず声がハモった

「申し訳ないけど玉子は俺が買って帰ります」

『ふふふっ。じゃあ高級な玉子お願い出来るかな?』

“帰りたくない”と言ったのは私だけど遅くなるとか初耳でハンドルを握るあーちゃんの顔を覗き込んだ

「おじさん居ますか?」

お父さんにも何か言うつもり?!

『あの人、町内会の集まりに今出掛けたのよ〜。伝えとくから大丈夫よ』

「明日殴られますから、今日はすみません」

『絢くんを殴るなんて。おばさんが許さないから気にしないで』

話しながら途中で“ふふふ”と合いの手を入れ続けてる。
私はただ意味が分からずあーちゃんが母と話すのを黙って聞いていた

「失礼します」の言葉で電話終了のタイミングと見て私は電話を切ってあーちゃんの肩を叩く

「いてーな。さちも帰りたくないだろ?」

“さちも”て言われるとあーちゃんも“帰りたくない”のかと思ってしまう。
婚約した以上私と同じ気持ちなわけない。

(仕事終わりに遊びたいだけなんだよ)

自分を納得させるように1人頷いた

婚約したばかりなのに良いの?と考えると不安と嫉妬で胸の中がモヤモヤしてしまう。

「さちは何も考えなくて良いから。俺に任せといて」

膝においた私の手に優しく手を添えるあーちゃんはやっぱりあーちゃんで私の考えてる事はお見通しなんだろう。

「手握るのいつぶりだろ、ね?あーちゃん」

恥ずかしいけど触れた手に幼い頃を思い出しながら大きくなったあーちゃんの手を握りしめた。
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