近くて遠い幼なじみの恋
5匹目、魚の目に水見えず
観覧車を降りて車に乗ったまでは覚えてる。
その後の事なんて覚えてない。
繋がれた手の暖かさなんて覚えていたくもない。
本当に悲しいと記憶ですら無くなると知った
「絢くんならとっくに帰ったわよ。ふふふ高級玉子貰っちゃった」
母曰くあーちゃんは寝てる私を抱えてベッドに寝かせ父と最後の市場に出掛け挨拶をして帰って行ったらしい。
「絢くんらしいわ。いつも幸を甘やかして小さい頃から全く変わらない」
「甘やかされた記憶ほとんどないけど」
食卓に母の作った朝ごはんを並べていく。
「あれ何歳頃だったかしら…そうそう幼稚園よ。あんた起きれないし起きても冬で寒いから行きたくないって。そしたら絢くん店の発砲スチロールの箱持ってきて風避けにするからってあんたを囲っちゃって!ふふっ」
確かに幼稚園の頃からあーちゃんが私を起こしにくるようになった。
「僕が魚屋継いで上げるって父さんに言っちゃってずっと早起きして、ね。」
昔を懐かしむ母に何も言えず黙り込んだ
魚屋なんて継げるわけないじゃない。
自分は旅館の跡取りなんだし…
「幸!!」
店の方から父が怒鳴り声に近い声を上げて部屋入ってきた。
「絢が、魚屋とお前を守れなくてすみませんって謝られたぞ!」