スクールアイドル防衛隊─通行人A子と弱虫王子―
 (わたし)(かた)まって(うご)けない(あいだ)に、その美少年(びしょうねん)、おそらく花菱(はなびし)くんはキョロキョロと(あた)りを見回(みまわ)す。

 その瞬間(しゆんかん)にも綺麗(きれい)(そろ)えられた(かみ)がサラサラと、(うえ)(まど)から()()夕日(ゆうひ)()らされて、(きん)(いと)みたいに(かが)いていた。

「・・・っこっち()て!」

 そうして(だれ)もいないのを確認(かくにん)したらしい花菱(はなびし)くんは、(わたし)()(つか)むと、(もつと)(はし)靴箱(くつばこ)(うら)、1(ばん)(だれ)()にもつかない場所(ばしよ)()れてくる。

 そして()(はな)した(かれ)表情(ひようじよう)には、(あせ)りや不安(ふあん)様様(さまざま)感情(かんじよう)渦巻(うずま)いているようで、(かげ)りがある。

 だけど、その(かげ)りすら、花菱(はなびし)くんの美貌(びぼう)(さら)魅力的(みりょくてき)にしているようだった。

「あのっ。」

 しばらくその(かたち)()(くちびる)(むす)んでいた花菱(はなびし)くんが、また(くち)(ひら)く。

 美少年(びしようねん)(こえ)まで()(とお)ったみたいに綺麗(きれい)なのか、神様(かみさま)ってほんと理不尽(りふじん)・・・なんて(あたま)片隅(かたすみ)(おも)った。

 けれど、「なんで(わたし)()れてこられたんだろう、というかそもそもなんで(はな)しかけられたの?」なんてことが、(あたま)大半(たいはん)()めている。

 だから、かなり困惑(こんわく)していた(わたし)は、花菱(はなびし)くんの一言(ひとこと)だけで(かた)()ねる。

 そのエメラルドグリーンの()一瞬(いつしゆん)不安(ふあん)()れて、けれど決心(けつしん)したかのように(わたし)()つめた。

 一瞬(いつしゆん)のことだった。

 グッとその(かお)(ちか)づく。

 ふわりとクチナシの(あま)(かお)りが鼻腔(びこう)()たした。

「オレと、()()ってくれませんか!」

 内緒事(ないしよごと)(よう)(おと)のない(こえ)()われた言葉(ことば)はくすぐったくて、その綺麗(きれい)(かお)呆然(ぼうぜん)()ていることしかできない。

 つきあって、つきあって・・・()()って!?

 その言葉(ことば)意味(いみ)をようやく理解(りかい)した(わたし)は、()がこぼれ()ちそうなほど(おどろ)いて、(くち)がぽかんと(ひら)きっぱなしになってしまった。

 なんで・・・!? 

「あ、ああっ、()(かた)間違(まちが)えた・・・! あの、本当(ほんとう)じゃなくて! フリ! フリをして()しいんです!」

 あたふたと、(あわ)てた様子(ようす)()われた言葉(ことば)で、ハッと正常(せいじよう)()(もど)す。

 それと同時(どうじ)に、あまりにも(かお)(ちか)かったから距離(きょり)()った。

 そ、そうだよね、フリだよね。

「・・・あの、なんで(わたし)、ですか・・・?」

 (おそ)(おそ)()いてみれば、その碧眼(へきがん)がこちらを(とら)える。

 うっ、先生(せんせい)()(とお)り、これは(くに)(かたむ)けそうな(うつく)しさだ。

 (あか)るい青緑(あおみどり)()()(とお)り、宝石(ほうせき)のようにキラキラと(かが)いている。

 その()()つめているとクラッとしてきそうで、(おも)わず()らす。

「え・・・? ああ、(あたら)しく風紀委員(ふうきいいん)(はい)った(ひと)だったから・・・。」

「あの、(はい)ってません。」
 
 ()()まずい静寂(せいじやく)が流れた。

「え、でも新崎(にいざき)先生(せんせい)が。」

(はい)ってません。」

 新崎(にいざき)先生(せんせい)、その単語(たんご)自然(しぜん)(こえ)がキツくなる。

 ()(まえ)美少年(びしようねん)は、まあるいエメラルドグリーンの()見開(みひら)き、しばらくしてから「え?」と、ありえないといった(こえ)()した。

「あの・・・、そういうことですから。」

 その()まずさに()えきれなくなって、(きびす)(かえ)そうとする。

「あ、()って!」

 なのに、手首(てくび)(つか)まれた。

 その()(おも)っていたより(あたた)かくて、角張(かくば)っていた。
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