スクールアイドル防衛隊─通行人A子と弱虫王子―
「あんまり、大事(おおごと)にしたくないんだ。それに、もし(おんな)()だったら彼女(かのじよ)ができたら(あきら)めてくれるかもしれないだろ・・・。」

 その(かお)は、少しふてくされているようにも()えた。

 なんというか・・・(おも)ってた以上(いじよう)普通(ふつう)()だな。

 ()()はこんなに綺麗(きれい)だけど、中身(なかみ)年相応(としそうおう)って(かん)じ。

 だから、こんな表情(ひようじよう)するんだ、って意外(いがい)(おも)ってしまった。

「だから、お(ねが)い! 1週間(しゆうかん)だけでいいから!」

 そう()()わせて、(すが)るように()われてしまったから、(わたし)はどうしようと(あたま)(かか)えたくなった。

 花菱(はなびし)くんの恋人役(こいびとやく)なんて()()けたら、(かれ)のファンの(ひと)やこのストーカーの(ひと)()されかねないよ。
 
 それに、もし()されなかったとしても、クラスでコソコソ(うわさ)されたりだとか、(いや)がらせだとか、(わたし)学園生活(がくえんせいかつ)(わる)(ほう)へと(かたむ)くのは(あき)らかだもの。

 それならいっそ・・・。

()かりました。」

「ほんとっ!?」

 花菱(はなびし)くんの(かお)がパアッと(はな)()くように(あか)るくなる。

「ただし、(わたし)(かり)恋人(こいびと)にはなりません。」

 花菱(はなびし)くんが(つぎ)言葉(ことば)()おうとするのを(さえぎ)って、(こえ)()した。

 花菱(はなびし)くんは「(かり)恋人(こいびと)」って言葉(ことば)反応(はんのう)したのか、(あせ)った様子(ようす)でシーッと口元(くちもと)(ゆび)()てる。

 あ、そっか(ほか)(ひと)に、(まん)(いち)()かれちゃ駄目(だめ)だから・・・。

 (すこ)反省(はんせい)しつつ、(はなし)(つづ)ける。

「その()わり、その犯人(はんにん)()つけます。大事(おおごと)にしなければいいんでしょ?」

 花菱(はなびし)くんの()(おお)きく見開(みひら)かれた。

「できるの?」

多分(たぶん)・・・。」

 というか、するしかない。

 花菱(はなびし)くんの必死(ひつし)(たの)みを(ことわ)るなんてこと、(わたし)にはできそうになかったから、せめて出来(でき)ることをって(おも)ってしまった。

 それに、あてがないわけじゃないしね。

 (わたし)のこの、“(あか)(いと)()能力(のうりょく)”が使(つか)えると(おも)ったんだ。

 そんなストーカーするほど()きなら、きっと(あか)(いと)()びているはず。
 
 (わたし)はじっと、(かれ)左手(ひだりて)小指(こゆび)()()らす。
 
 (あか)(いと)は、たしかに()びていた。

 ・・・だけど、その(かず)は、ありえないほどに(おお)かったの。

 そうかぁ・・・! って、(ひざ)をつきたくなった。

 (たし)かにそりゃそうだ。

 花菱(はなびし)くん、()(はなし)だとありえないくらいモテるもん。

 (あか)(いと)本数(ほんすう)(すく)ないわけがない。

 1、2、3、4・・・()るだけでも30(ぽん)以上(いじよう)()びている。

 先生(せんせい)()えだ、(すご)い。

 この(いと)(すべ)辿(たど)るのは無理(むり)だろうなぁ、なんて(なか)(あき)めながら(なが)めていると、(はじ)めて()(いろ)()つける。

 ・・・(くろ)い。

 その(いと)は、禍禍(まがまが)しさを(かん)じるほどに(くろ)かった。

 よく()てみると、その(くろ)(いと)は、なんとか花菱(はなびし)くんの小指(こゆび)(から)みつこうと、手首(てくび)にグルグルと()()いている。

 その様子(ようす)が、この(いと)()(ぬし)執着心(しゆうちやくしん)(あらわ)しているようで、直感(ちよつかん)した。

 この(いと)()(ぬし)が、ストーカーだ。
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