憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


博子の言葉に、相続の経緯を知っているはずの父は無言だ。
なにかじっと考えているようだが、仕方なく由美から説明する。

「あの診療所の土地建物と母屋すべて、おばあ様と私が相続しています。今回の件はおばあ様も納得してくださっていますし法律的にも問題はありません」

「えっ⁉ あそこの名義はあなたじゃあないの?」

博子は立ち上がって、夫の方に走り寄った。
やっと義実が重い口を開いた。

「ああ、この件は解決済みだ。じいさんが亡くなった時に遺言通りにしている」
「そんな……私は聞いていなかった……」

顔色をなくす博子の側に裕実が駆け寄って、もう一度ソファーに座らせた。

「酷い……あなた、なにも話してくれないのね」

ガックリと項垂れる博子を見て、裕実は必死で声をかけている。

「お母さま、しっかりして!」

裕美の声でキッと顔を上げた博子は、まだ由美に怒りの目を向けている。

「じゃあ、あなたはその件に柘植先生を巻き込んでいるの?」
「いえ、そんな……」

慌てて彼は無関係だと言いかけたが、博子の言葉は止まらず由美の言葉を遮った。

「ずいぶん院内で噂になっているじゃない。あなた、どうやって柘植先生に取り入ったの?」
「そんな……取り入るだなんて」

さすがに克実も言い過ぎだと思ったのか、母親を(たしな)める。

「お母さん、やめて下さい。医者同士だから色々と付き合いもありますよ」

博子は克実の言葉も耳に入らないようだ。

「あなた、お義母様が入院中なのをいいことに柘植先生と暮らしてるんじゃないの?」

博子は、どんどん由美を責め立てる。



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