憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


以前、心臓手術を受けたとは思えない元気な声だ。
佐々木とも子は、もう小学生になっている。

とも子の大きな声が聞こえたのか、看護師の早苗が何事かと診察室のドアから顔を出した。
今日の患者はもう終わったはずなのに、迷子のおじちゃんが誰か気になったのだろう。徘徊しているお年寄りなら大変だ。
見ると、診療所の入り口には無精ひげが伸びた直哉が立っているではないか。

「あら~直哉先生! 迷子になっちゃったんですか?」

「参ったよ。道路工事してるから一本手前でタクシーを降りたんだ。そしたら診療所がわからなくなっちゃって……」

とも子は驚いた顔で、苦笑いしている直哉を見ている。

「なおや先生なの? おひげでわからなかった!」
「先生、佐々木とも子ちゃんですよ」

今度は直哉が驚く番だ。

「ええっ⁉ とも子ちゃん、もうこんなに大きくなったの?」
「とも子、四月から五年生だもん」

胸を張るとも子に早苗が声をかける。

「とも子ちゃん、蒼ちゃんは?」
「あ、うちのお母さんが保育園から連れて帰ってるよ」

「ええっ、蒼太? どこだい?」

大きな直哉の声が聞こえたので、由美までが診察室から出てきた。

「直哉さん! 驚いたわ。こっちに帰ってくるの明日じゃなかった?」

「そうなんだけど、待ち切れなくて… それより、蒼太は?」


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