憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


蒼太は、由美と直哉の息子だ。
直哉がサンフランシスコへ行く頃、由美は妊娠八カ月の身重だったのだ。
直哉が勉強のためとはいえ、日本を離れるのを躊躇したのは出産を見届けたいと思いがあったからだ。

だが、由美は直哉の背中を押した。
自分にはたくさんの頼れる人たちがいる。
直哉が最新の心臓外科手術を勉強することで、救える命が増えるかも知れないのだ。

「蒼太は、ともちゃんのお母さんがお迎えに行ってくれてるの」

今日の診療は午前中だけなので、とても忙しかった。
蒼太の保育園のお迎えには、診察に来ていたとも子と母親が由美が慌しいのを知って行ってくれたのだ。

「迷子って……あなた昔も金沢の大学で迷っていたわね」

クスクス由美が笑い出したところへ、とも子の母の声がした。

「ただいま~」

蒼太と手を繋いで、のんびりと診療所に入ってくる。

「お母さん、遅いよ」
「ごめんごめん、蒼ちゃんとちょうちょ見てたんだ~」

「蒼太!」

いきなり大きな声で名前を叫ばれた蒼太は、泣きそうなほど驚いている。

どちらかと言うと、直哉に似た優し気な顔立ちの子だ。

「直哉さん、落ち着いて。蒼太がびっくりしてる」

由美の言葉に、直哉は慌てて蒼太にむかって優しく話しかけた。

「ただいま、蒼太。パパだよ~」



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