憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


***


由美の記憶に‶父″が存在がするのは、母のお葬式の日からだ。

すでに母方の祖父母も故人だったので、お葬式は近所の人や母の勤めていた病院の人たちが取り仕切ってくれた。
由美はひとりぼっちになってしまった心細さもあって、早春の葬儀場はとても肌寒かったのを覚えている。

これからの生活がどうなるのかわからず不安だった。
大人たちはあれこれと話し合っていたが、由美は泣くことすら忘れてぼんやりしていた。

無事にお葬式が終わった頃、由美を尋ねて弁護士がやってきた。
東京の父方の祖父から依頼を受けたという穏やかそうな眼差しの人物だった。
由美を安心させようと思ったのか、祖父とは親友だと話してくれた。

不治の病に侵されたと悟った母が、父方の祖父母にあたる東京の立花診療所の院長夫妻に手紙を送っていたという。
院長夫妻は突然の手紙や、その内容に驚いたことだろう。
急いで弁護士を金沢まで寄こしてくれたのだが、母は病気が急変して亡くなったあとだった。

『由美さん、東京に参りましょう。あなたにはおじい様やおばあ様、お父様がいらっしゃるんですよ』

弁護士の口から、初めて由美は自分の父が生きていることを知ったのだ。



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