憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
(私、あの人に似ている……)
紹介されなくても、父だとすぐにわかった。
その人も同じ気持ちだったのか、ただ由美の顔を見つめていた。
だが由美に言葉をかけるでもなく、すぐに弁護士に『あとは任せる』と告げて仕事に出かけてしまったのだ。
由美が‶お父さん″と、呼びかける間もなかった。
その場に残された由美は途方に暮れた。
ただ父に会いたくてここまで来たのに、挨拶すらさせてもらえなかったのだ。
その事実が悲しくて、応接室に立ち尽くす。
6歳年上で医大に合格したばかりだと聞いていた義兄は留守だった。
父が座っていたソファーの向かい側にいるのが、義母と義姉らしい。
義姉は由美よりひとつ年上だというが、身に着けているのは子どもっぽいフリルのついたブラウスだ。
可愛らしい洋服に似合わない、意地悪そうな目で由美を睨みつけていた。
義母は美しい人だったが、由美に話しかけようともしなかった。
由美の存在は、義母や義姉にとって許せないものだったのだろう。
父が出て言った後の部屋の空気はピリピリしていた。
『奥様、こちらが由美さんです』
『そう』
弁護士が話しかけると、義母は興味なさそうに返事をした。
大人になってから知ったのだが、義母は由美のことを‶親を亡くした親戚の娘を引取る”と周囲に説明していたらしい。
夫に愛人がいたとは知られたくなかったのだろう。
世間体を取り繕おうとしたのだが、立花家に現れた由美は夫の義実や長男の克実とそっくりな顔立ちなので親戚というより親子そのものだ。
あの時の義母は、夫や由美の母への怒りを必死に抑えていたのかもしれない。