憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
過去
慌しかったのも真夜中までで、ERもやっと静かになってきた。
「ミミ先生」
「は、はい?」
パソコン画面に向かったままぼんやりと過去を思い出していた由美は、看護師に話しかけられて我に返った。
「ミミ先生、なんだかお疲れじゃないですか? お顔の色が青いですよ」
ほとんど化粧をしない由美の顔色は青ざめていた。
「あ、ごめんなさい。大丈夫よ。新患ですか?」
「いえ、少し落ち着いたのでコーヒーでもいかがでしょうか」
若い看護師がマグカップを由美の前に置いてくれた。
由美はいつもブラックだ。
「ありがとうございます。いただきますね」
父や兄はクールな印象だが、同じ整った顔立ちでも由美は物腰が柔らかいので看護師たちからの人気は高い。
″ミミ先生″とニックネームで親しく呼ばれているのが証拠だろう。
彼女は母親が看護師だっただけに、彼女たちの忙しさや大変さが身に染みているのだ。
特に子育て中の看護師には、マメに声をかけて労わっていたし、なにか困ったことはないか尋ねることも多かった。
逆に、院長の娘だという意識が高いのが裕実だ。
彼女の容姿は母の博子によく似ていた。
大きな目が印象的な顔立ちで、いつも美しく化粧をして髪型も乱さない。
女性雑誌のモデル経験もあり、院内でも目立つ存在だ。
ただ自分の主張を曲げることはしないので、周りからは少々扱いにくいと思われていた。