憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
「そうなんです。交通事故の患者さんでごった返していたから、ドクターが手薄になってバタバタでした」
「それは大変だったね。お疲れさま」
森も経験豊富な医師だから、昨夜の忙しさが想像できたのだろう。
由美に、心からいたわりの言葉をかけてくれた。
「だけど、食事を抜いたらダメだよ。医者の不養生だ」
「はい。気をつけます」
素直に答えながらも、由美は昨夜のERで見かけた人を思い出していた。
昨夜は彼とすれ違った衝撃でなにも喉を通らなくて、コーヒーしか口にしていない。
さすがに今は空腹を感じられるようになっていたが、今後のことを考えると頭が痛い。
直哉とは同じ病院で働くことになるのだから、これからずっと避け続けるのは難しそうだ。
食べ終えた由美は森に声をかけた。
「コーヒーでも淹れましょうか?」
「いや、僕がするよ。コーヒーだけは自信があるんだ」
森は気軽にキッチンへ立って、ふたり分のコーヒーを淹れてくれた。
「ああ、美味しいですね」
森からカップを受け取ってひと口飲むと、由美は人心地ついた。
蒸し暑い季節だが、冷たい飲み物よりも湯気の立つ熱いコーヒーの香りが気分を落ち着かせてくれる。
「なにかあったのかい?」
森は由美の表情からなにかを感じたのだろう。
心配そうに顔を覗き込んできた。
「いえ、別に……」
森に過去を知られたくなくて、由美は言葉を濁した。