憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました

由美の恋



***

 
祖父母の家で暮らすようになって、由美は少しずつ東京に馴染んでいった。
中学に入学すると友だちもできたし、勉強や部活動にも積極的に取り組んだ。
祖父母は大切な孫として由美を愛してくれたので、ほとんど会うことのない実の父よりもありがたい存在だった。

高校生になった由美は、祖父の働く姿を見ているうちに‶医者になりたい”と思うようになっていた。
祖父は患者さんひとりひとりの声にじっと耳を傾ける人だった。
請われたら深夜でも往診に飛び出して行く医師だった。

(私もあんなお医者さんになれたら……)

由美は高校生になってから、一生懸命に勉強した。
だがどう頑張っても、子供の頃から家庭教師がついていたり塾に通っていたりした義兄や義姉のように都内の医学部を目指すには出遅れていた。
義母は気がむくと立花診療所の様子を見にきていたが、由美と顔を合わせるたびに義兄や義姉と比べるのだ。
ふたりはとても成績優秀らしくて、いつも自慢していく。
その度に由美は落ち込んだものだ。

暗い顔をする由美に、祖父はアドバイスをくれた。
東京から離れ、故郷の金沢にある大学の医学部を勧めてくれたのだ。
祖父は立花の家族から離れた方が、由美のためだと考えたのだろう。

大学に無事合格して久しぶりに金沢に帰った由美は、祖父が正しかったと悟った。
この街では、自分らしくのびのびと暮らせるのだ。
立花家の一員だと注目されることもないし、義兄や義姉と比較もされない。
西関東総合病院の院長の隠し子だと噂されることもない。
家事も苦にならないので、ひとり暮らしはかえって楽しいくらいだ。
東京では俯きがちだった由美が、堂々と背を伸ばして前を向いて歩けた。


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