憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
由美が柘植直哉と出会ったのは、大学の医学部最終学年の夏だった。
由美の学ぶ金沢の大学で心臓外科の学会にあわせて高名な医師の講演やゼミが八月から九月の夏休みの間に開かれることになり、全国各地から若い医師が集まった。
テーマごとの分科会もあったので、大学内や附属病院は活気に満ちていた。
由美は参加者たちの世話係のアルバイトをしていたときに、五歳年上の柘植直哉と出会った。
分科会に遅れそうになっていた直哉を会場まで案内したことがきっかけだった。
『場所がわからなく困ってるんだ。教えてもらえないかな?』
照れくさそうに笑いながら話しかけてくる彼を見た時に、由美はすとんと恋に落ちた。
ひと目見て、背が高い人だと思った。
なにかスポーツでもしているのか日に焼けていて、ラフなシャツ姿でもスタイルの良さが目立っていた。
いかにも都会的な洗練された雰囲気なのに、シャイな笑顔を由美に見せるのだ。
『きみ、名前は?』
それから……彼の優しい声にひかれた。
『由美……長谷川由美です』
なんの迷いもなく、長谷川と名乗ってしまった。
直哉の前に存在したのは立花家の養女になった‶立花由美″ではなく金沢で生まれ育った‶長谷川由美″だった。