憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
おままごとのようなふたり暮らしが始まった。
直哉の存在は、由美の中の欠けていた部分を埋めてくれた。
この人に出会うために生まれてきたように思えたし、彼に愛されていると思うと自信が湧いてきた。
直哉も同じだったらしく、出会った瞬間に『コイツだ』と思ったと言ってくれた。
精神的にも肉体的にも、お互いに特別な繋がりを感じたのかもしれない。
あの夏は、お互いしか見えていなかったとしか思えない。
なにしろ少しの時間も離れがたくて肌をあわせていたのだ。
『由美の家が落ち着くんだ。ずっと由美の側にいたい』
日本家屋が気に入ったのか、のんびりと座敷に寝ころんだまま彼はそんなことを口にしていた。
由美が住んでいたのは長谷川家が所有していた借家のひとつで、黒板塀の情緒ある家の門には‶長谷川″の表札がかかっていた。
昔の花街があった場所に近く観光客にも人気がある一角だ。
大学の帰りには、涼を求めて市内を流れる犀川沿いをふたりで散歩したものだ。
由美は立花家の娘だということを隠そうと思ったわけではない。
父に引き取られたときから、あの家に愛着はないのだから。
直哉には、ひとりの女性として自分を見てほしかっただけだ。