憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


学会が終わってからも、直哉は休暇をとって金沢に居続けた。
だが彼は、秋からはサンフランシスコに行くことが決まっていた。
由美は彼を束縛したくなくて、‶行かないで″とは言えなかった。

現実を思うと由美の心は乱れる。やっと手にした愛は儚い夢のように思えた。

(お母さんは、どうして家庭のある人を愛してしまったんだろう)

由美は母と同じように恋に人生を翻弄されてしまうのが怖かった。
だが現実には、住む場所も学ぶ場所も違う人に恋してしまった。

『好きだ、由美』
『直哉さん』

若かったふたりは毎夜、飽きることなく抱きあったものだ。

(彼が好き……でも、あと少しで夏が終わる……)
 
多くの人の力になれる医師でありたいと直哉が言えば、由美は患者さんを支えられる医師になりたいと話す。
彼はサンフランシスコのスタンフォード大学の病院でフェローをするという。
心臓手術の研修を受けるチャンスだというのだ。

別れる日はどんどん近づいてくる。でも、彼とは離れがたい。
由美は寂しかったが、快く送りだしてあげようと覚悟を決めた。
ふたりの夢と未来を重ね合わせることはないだろうと由美は諦めていたのだ。
  
『由美、俺たちふたりのこれからを考えよう』

いよいよ休みが終わる頃、由美は直哉からプロポーズとも思える言葉を告げられた。

『どういう意味?』
『僕たちのこれから先、ずっとのことだ』

愛しあった名残の残る布団に横たわったまま、直哉が由美を抱き寄せて耳元に熱く囁く。

『いつか医者として独り立ちできたら、君を迎えに来る』
『信じて……いいの?』

直哉は由美がすぐに『ハイ』と答えると思っていたのか、チョッと残念そうな顔をみせた。
だがすぐに気を取り直して、これでもかというくらいにぎゅっと強く由美を抱きしめてきた。

『僕には、由美だけだ』


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