憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
月曜日。直哉が西関東総合病院の心臓外科に出勤する日だ。
梅雨が明けて眩しい朝日が差し込む部屋で、直哉は一人コーヒーを飲んでいた。
高層マンションの最上階を社宅として自由に使っていいと言われていたが、なんとなく居心地は悪かった。
マンションに不便はないが、立花家に取り込まれいくようで少々困っていた。
帰国してすぐに挨拶のため訪ねた立花家で、克実から院長と彼の妹を紹介されたときから違和感はあった。
院長たちと仕事の話をしようと思っていたのに、なぜか裕美ばかりが直哉に構うのだ。
サンフランシスコ時代のこと、静岡にある直哉の実家のこと……。
初対面なのに、不躾なくらい親し気に尋ねてくる。
直哉の実家が病院を経営していて兄が後を継ぐと話すと、裕実は笑顔を見せた。
『じゃあ、先生は東京でずっとお仕事なさいますの?』
『そのつもりです』
『よかった』
なにがよかったのかわからないが、裕実の媚びる視線にいい印象は持てなかった。
あとから、裕実との縁談を院長夫妻が目論んでいると克実がコッソリ教えてくれたので驚いた。
こんな住まいまで準備されていたということは、外堀から埋めて取り込む気なのだろう。
(マンションは先輩の好意かと思っていたが、早くここを出ないとマズいな)
好待遇で迎えられたのは心臓外科のためというより、娘婿として取り込みたいとの思惑の方が強いのだろう。
医師としては腹立たしくもあった。