憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
帰国するまでの直哉は、恋愛や結婚に興味すら抱いていなかった。
ここ数年は、心惹かれる女性にも出会っていないし誰とも関係を持っていない。
自分の中に‶人を愛する心”はなくなったとさえ思っていた。
彼にとって、失ってしまった過去の恋人だけがすべてだったのだ。
ERですれ違った女医がきっかけで由美を思い出しさえしなければ、出世のためと割り切って裕実との結婚話を受けたかもしれない。
(ゆっくり会ってみたい……)
ERですれ違った日から、直哉は女医の存在が気になっていた。
胸の奥にしまい込んでいた恋を思い出すことが増えたのも、かつての恋人と女医を重ねてしまうからだろう。
(あれから由美はどうしているだろう)
院長夫妻に裕実との結婚を勧められたとしても、もう頷くことは出来ない。
忘れていた人間らしい感情が、やっと戻ってきた気がするのだ。
出世のためという中途半端な気持ちで結婚相手を決められない。
(この夏で、もう五年か……)