憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
「ほらほら、あなたたち休憩時間はおしまいよ」
そこに、外科の看護師長として厳しいことで有名な三上が顔を見せた。
「はい!」
「すみませんでした!」
看護師たちはあっという間に解散して仕事に戻って行った。
直哉だけが喫茶コーナーに残されたところに、三上が近寄ってくる。
「看護師たちが柘植先生を取り囲んじゃって、ごめんなさい。よく言っておきますから」
「いえ、こちらからつい話し込んでしまったので」
看護師たちを庇うように話す直哉の顔を、三上師長はしげしげと見ている。
「あの、なにか……」
「いえ、少しお話が聞こえてしまって」
「今の話ですか?」
ゆっくりと三上が首を縦に振った。
それから周りに人がいないのを確認してから小声で話しかけてきた。
「柘植先生、先生がいずれ立花家にお入りになる予定でしたら今の話は気になさらないでくださいね」
「立花に入る?」
直哉が怪訝な顔をすると、三上は少し驚いた顔をした。
「ああ、私も口が滑りましたね。では失礼いたします」
三上は表情を取り繕うと、すぐに直哉に背を向けて去っていった。
直哉はその後姿を見送りながら、ハッとした。
三上は古株の看護師だから、立花裕実との縁談を耳にしたのかもしれない。
(だが、気にするなというのはどういうことなのだろう)
この病院に婿入りするなら、院長の隠し子がいるという話を無視しろということなのだろうか。
まだ‶ミミ先生″とやらの顔すら見ていないのだから、直哉には判断のしようもなかった。
ただ、裕実との縁談だけは断ろうと決めていた。