憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
由美は副院長室には、滅多に入らない。
立花家の娘という立場をなるべく知られたくなくて、いつも目立たないようにする癖がついていたのだ。
この日もロッカーで私服に着替え、タイムカードを通して帰宅の用意をしてから義兄のいる十階に向かった。
「失礼します」
ノックして断ってから副院長室のドアをそっと開けた。
部屋の中にはデスクと応接セットくらいで、絵画のひとつも飾られていない。
「まあ、座れ」
「はい」
義兄に促されて向かいあわせになるようにソファーに座った。
由美は入り口に背を向けた格好になる。
ふたりは義兄と義妹というより、医者同士といった方がしっくりくる。
克実は義母や義姉のように由美に敵意を向けてくることもなく淡々としているし、克実の妻でここの産婦人科に勤める医師の里香とは仲よくさせてもらっている。
立花家の中で、義兄は由美が一番安心できる相手だ。
「今日はすぐに心臓超音波検査までしたよ」
「それで、いかがでしょう」
由美は自分の診断に間違いはないと思ったが、どうしても専門医に確認してもらいたくて義兄に診察を頼んだのだ。