憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
「待ってくれ!」
もうなりふり構っていられない。直哉は大きな声で名前を呼んだ。
由美がこちらを振り向くのが見えたが、彼女も諦めたのかその場に立ちつくしている。
「由美、俺だ」
すぐ側まで駆け寄って、彼女の顔を見つめた。
走ったせいで汗ばんで、少し上気した顔がやけに艶めかしい。
「柘植直哉だ」
あえて名乗ったが、まだ彼女は黙ったままだ。
彼女が自分のことを忘れているとは思いたくなかった。
「会いたかった……」
本当は彼女に触れたいし抱きしめたいが、ぎゅっと手を握り込んで耐えた。
「私は……会いたくなかった」
小さな声だったが、彼女が漏らした言葉は直哉の心に突き刺さった。
「はじめましてなんて言うから、焦ったよ」
聞こえなかったフリをして、わざと明るい口調で喋ったが由美の表情は動かなかった。
「私たち、初対面のふりをした方がいいと思うわ」
「だが、俺たちは……」
恋人だと言いかけて、今は違うのだと気付いた直哉は黙り込んだ。
今の関係をなんとも言いようがなくて、言葉が続かない。
「あなたは、なにもわかっていない。裕実と結婚するためにこの病院へきたんでしょ?」
「それは違う!」
直哉は大きな声で否定したが、由美は信じていないのか無表情なままだ。
「いいの、誰と結婚してもあなたの自由だもの。でもこの病院で働くなら、私にはかかわらないで」
「君は……それでいいのか?」
直哉の言葉に、由美の肩がピクリと震えるのがわかった。
「ええ。ご用がないなら失礼します」
直哉をちらりと見てから、由美は軽く会釈をすると去っていった。
もう直哉も追いかけはしなかった。