憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
 

予定を急遽変えたから、帰国は成田着の便だった。
由美はこのままひとりになるのが寂しくて、祖父母の顔を見に立花診療所へ寄ろうと思い立った。
ロビーから連絡を入れようと、ずっと切ったままにしていたスマートフォンの電源を入れたら直哉からの着信とメッセージがたくさん入っていた。

『ごめん、由美』
『カン違いだ』
『電話に出てくれ』

まだショックから立ち直れていなかった由美は怒りにまかせて、彼からの着信を拒否した。

そして……へとへとになって祖父母の家に帰り着いた由美に、信じられないことが起こった。
祖父母の家に着くなり、急な腹痛と不正出血のため緊急入院して手術となった。
由美は気がついていなかったが直哉との子を妊娠して、流産したのだった。


***


当時を思い出して、由美はブルっと震えた。
あれから、何度も泣いた。
思い出しては悔しくて悲しくて、眠りながら夢でも泣いていたくらいだ。
恋した人は、五年の間に一番憎い人になっていた。

柘植直哉は義姉の結婚相手として立花家の皆に認められたのだろう。
それなのに、彼は由美に向かって『会いたかった』と言ったのだ。

(嘘ばっかり……)

さっき聞いたばかりの彼の声が耳から離れない。
今となっては彼の言葉はすべて信じられないし、白々しくさえ感じてしまう。

(きっと金沢での私とのことや、サンフランシスコに彼女がいたことを知られたくないんだわ)

由美から過去のことを口にするはずもないのに、気になって追いかけて来たのだろうか。

(もう、二度と話しかけないでほしい)

半裸で抱き合って、濃厚なキスを交わしていた直哉の姿が蘇ってきては彼女を苦しめる。
今でもあの日の衝撃を思い出すと心の古傷が血を流すのだ。

(私は、会いたくなかった)

それが今の由美の本心だった。


< 57 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop