憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


「ご心配おかけしてすみません」

家庭内のこととあって、由美が皆に明らかにはしていないこともあった。

「失礼だが、遠慮なく聞くよ。前の院長先生が亡くなってから、この土地建物の名義は美也子夫人と息子の実美先生になっているのかな?」

森医師と由美の会話をみんなが真剣な顔で聞いている。
由美ひとりに苦労させたくないと思っていても、多額の資金援助となれば難しい。

「いえ……祖父の遺言で、祖母と私が相続しています」
「ああ、そうだったんだ」

義実たちから相続権を主張されるという最悪の状況にはならないと聞いて森医師も納得したようだ。

「父は相続を放棄していますし、なにも問題ありません」

由美の言葉を聞いて、森医師は安堵の表情を浮かべた。

「初期投資も大きいだろうに、由美先生はよく決断したね」

「大学を卒業したときに、金沢の土地を売却したお金を充てたんです」
「なるほど……私の申し出が必要ないはずだね。資金は十分にあったんだ」
「足りなければ、私がローンを組みますから」

冗談めかして由美が言うと、森医師は苦笑した。
森医師からも出資の話はあったのだが、由美は丁重にお断りしていたのだ。
先のことはどうなるかわからないし、森医師も離婚の際に多額の慰謝料を払っていると聞いている。最初から無理をしては、事業として長く続いていかないはずだ。
由美は、美也子の財産をあてにしていない点だけは強調した。
遺産相続などで問題になることはひとつもないのだと、スタッフには理解してもらいたかったのだ。

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